四日目

今朝は屋外の怒号で起きる。チンピラでも騒いでるのかと思っていたら、今度はシャッターらしきものをガシャガシャと押し付ける音。しかもうちからすごく近いところでおきてる音。怖くなって、おそるおそる窓から外をのぞく。すると、火事だった。身に迫る恐怖を感じ、足ががくがく震えた。といっても、うちから道路をはさんだ家で、俺の知る限り二度目だ。窓を開けると焼けこげる臭いとともに、消防隊員のかたの怒声がひびく。人がまだ家の中に取り残されているらしい。時間は三時前。ジョギングにいく時間だ。こそこそとジョギングにいく準備をはじめ、昨日のソーセージをとりだす。外では警察官が怪しい人物を探しているというので、外へ出る勇気がでない。俺は怪しまれれば怪しまれるほど、挙動不審になり怪しい人物になってしまうのだ。ソーセージをくるんだティッシュなど、いかにも怪しいのでこれをパンツのなかにいれてもちだすことにした。こっそりと家を出て、火事で大騒ぎになっているのを横目に、ジョギングへでかけた。
いつものマンションの前につくと、すぐさまソーセージをおいて、その場をたつ。みようによっては放火犯そのものだ。あたりをみまわしても猫はいなかった。やがて土手につくと、ジョギングをはじめる。今日のBGMは井筒ゲストのナイナイのANN。面白く、気分よくはしれた。他にモー娘、海援隊ミスチルプレスリーなど。いつも思うが、海援隊は土手のジョギングにほんとうにあう。昨日につづき、今日もおおきなお月さんが輝いていた。ただ昨日ほどの感動はない。今日みたいに晴れ晴れとした日のまんまるにうつるお月さんより、雲がかすみ、それを月明かりで照らしているお月さんに趣をかんじるのだ。とはいえ、月をみてると気持ちは和む。しかし、月の光はなかなか明るいものだ。はじめて月明かりで影ができた。今日は8キロはしる。非常に調子よくはしれた。帰り、マンションの前を通るとソーセージは綺麗になくなっていたが、猫の姿は見えない。二日も見ていない。ちょっと心配。家について体重をはかると、おとといとおなじ79キロ。なかなか落ちないものだ。まあ、長いスタンスで考えているからいいけど。
ジョギングは今日で7日連続、実に一週間続けたことになる。雨さえなければ、頑張れるのだ。


・ジョギングについて
ジョギングはいわば持久走だ。俺は子供の頃から、この持久走というのがひどく苦手で、1,5キロ走でも途方もなく感じられたし、走り終わると嗚咽していた。とにかく喉がかわいて痛かった記憶がある。そもそも「走る」という瞬発的であるはずの運動を持続して長々と続けるなんて無理だと思っていた。せいぜい5分が限界だった。
大学に入ってからはサークルもはいらず、運動を一切やらなくなった。ダイエットは何度も試みたがだいたい一時的な食事節制にとどまり、もちろん成功することなどなかった。これではいかんとおもい、去年の夏ごろ、荒川の土手へでてウォーキングとダッシュを交互にやってみた。これが辛い。息が上がるどころではなく、意識が遠のき、うずくまってしばらく動けなかった。それまでは、「走りきる」というイメージは、青春の1ページ、体力をつかいきりすがすがしい気分のものだったが、とんでもない。すべての精気を失うだけだった。それから、3日に1度ぐらいのペースで数分のランニング+ウォーキングをするようになった。ビーチボーイズ、ボブディラン、カーペンターズなどそのときハマっていた洋楽をかけながら。思えばこれがきっかけでボブディランのすばらしさを理解できたのかもしれない。家でプレーヤーできくだけでは、彼独自のリズムは理解しづらい。
さて、ダイエット目的ではじめたこのジョギングだが、成果というとまったくなかった。むしろ太った。ランニング+ウォーキングは極度の疲れとともに、尋常じゃないのどの渇きをもたらす。そのため、いつも運動後はジュースをがば飲みしていたのだ。これにくわえて、食事はいつもどおりお菓子の箱食いなどしてるわけだから、痩せるわけもない。しかし、このすべてが無駄とおもえるランニング+ウォーキングにも収穫はあった。俺にとって大きな収穫。
それは、きもちよく長く走る術を覚えたのだ。今まで俺はランニングのとき「ハーハーフー」という呼吸を意識しすぎてそれが逆に酸欠をまねいていたのだが、それが間違いで、普段どおりの呼吸をしながら走ることがコツだった。そのために、走る速度も落とす。これこそジョギングだ。また、ランニングをはじめてからたびたび足の筋をいためて、運動ができない状態になったりしていたのだが、上半身をつかって走ることを覚えてから怪我がなくなった。つまり、腰をふることを意識しつつ、両方の肩を交互にだすのだ。
ジョギングのコツを覚えてから、走る距離が徐々に伸び始めた。はじめはそれこそ1キロをこえただけで、すごい達成感だった。それが、2キロ、3キロとのび、俺にとって一つの目安である折り返し地点(だいたい3,2キロ地点)まで一気に走れるようになった。さらに、記録は伸び、最高で10キロにも及んだ。だいたい100分ほどの時間をかけてだから、相当ゆっくりだ。こうして、ジョギングは気持ちいい。走ってる最中の高揚感や、走り終えたときの達成感をいちどおぼえれば癖になるということを知るにいたった。なによりの収穫だ。
さて、ジョギングの快感をおぼえてその後順調に体重が減ったかというとそうではない。むしろさらに太った気がする。なぜなら、週に2度ジョギングする程度だから。しかも、うまい棒の30本食いなど暴飲暴食は続いていた。こうしてるうちに就職試験も失敗し、公務員をめざすことになった。これがきっかけだったか。もしくは、鏡でみる自分の容貌が醜く感じたことか。俺は本格的にダイエットを決意した。ジョギングは2日に1度する、日中カロリーはとらない。これで60キロ台まで落としたい!そう決意した。ダイエットを決意したことなど、今までいくらでもあるが、このときの決意は本物だった。
しだいに2日に1度のジョギングが、毎朝ジョギングへとかわり、今に至る。体重現在79キロ。83〜4キロからだから、まだそれほど落ちてないかな。